2点透視から3点透視への変換

前回は2点透視において、視心(VC)を不適切な位置に配置した例を挙げました。問題を解決するには3点透視として描き直す必要があるとも述べましたが、その結果が下の絵です。

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前回の絵と比較してみましょう。

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(左)3点透視   (右)2点透視

余談ですが、この絵は「入室待ちのため、廊下に置かれたパイプ椅子に座っている」という設定になっています。1年以上も前に描いたものであるため、私自身も忘れていましたが、そういう設定である以上、反対側の壁を描かないと「廊下にいる」という状況が伝わらないため、画面を広げて壁を描き足しました。

本題に戻りますが、まず両者の違いを確認しておきます。違いはカメラの向きです。2点透視図の方はカメラが水平方向を向いていますが、3点透視図は斜め下を向いています。(透視図法では、カメラの向きのことを「視心(ししん)」と呼びます。英語ではVisual Centerであり、これを略してVCと書きます)

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上図は側面図です。つまり空間を真横から見た図です。視心を中心に60°の範囲が着色されていますが、この範囲が60°視円錐です。透視図法では、視心から離れるほど歪みが大きくなるため、目安として60°視円錐の範囲内に被写体を収めた方が良いと言われています。(60°という数字は絶対的な数値ではないです。人によっては50°や40°が限界という意見もあります)

まずは左図(2点透視)ですが、足元が60°視円錐の外側にあり、歪みが懸念されます。さらに問題なのは視円錐の上半分がまったく使われていないことです。要するに視野が有効活用されていません。カメラを下にさげれば問題は解決できますが、今回の絵は人物を上から見下ろすというこだわりがあるため、カメラの高さは変えられません。

ここで取り得る選択肢は2つあります。1つはカメラを後ろにさげること。もう1つはカメラを下に傾けることです。後者を実現したのが右図(三点透視)です。

図中の22°というのは水平方向を基準としたカメラの傾きであり、これを俯角(ふかく)と呼びます。22°の俯角を取ることで、被写体は60°視円錐の内側にすっぽり収まり、視心を中心とした両側が有効活用されるようになりました。(視野調整のため、カメラを若干前に出しています)

 

次は透視図の方に着目します。3点透視図の3つの消失点VP1,VP2,VP3は下図の配置となっており、それらを元に作図的に画角を求めると、画面は60°視円錐(V.Cone)にすっぽりと収まっていることが確認できます。視心(VC)は画面中央に置かれており、透視図法としては理想的な配置です。(理論はパースフリークスの3点透視の章で説明しています)

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画面周辺の拡大図も挙げておきます。

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透視図法の例題においては、廊下は1点透視で描かれることが多いですが、今回の絵はそこから8度および22°回転させたものです。角度が浅いため、視覚的には1点透視図と大きな差はありません。とはいえ、傾きに応じた差異は確実に発生するので、カメラの向きを軽視して良いわけではありません。

浅い仰俯角は遠い消失点を発生させることから、敬遠される傾向がありますが、これらの浅い角度を構図の選択から省いてしまうと、表現の幅が狭くなってしまいます。「このカメラは水平方向に構えて撮ってください。どうしても上下を向けたい場合は30度以上傾ける必要があります」という制約を持つカメラは使いにくいことが想像に難くないと思います。

作図上の手間暇を考えると悩ましい選択にはなりますが、それでも浅い角度を簡単に切り捨ててしまうのはもったいないので、描きたいイメージを尊重して作画に臨みたいところです。

 

ここから先は作画上のポイントなどを説明していきます。

1.短縮率を考慮した人物の作画

3点透視で人物を描く場合、縦方向の短縮率に注意を払う必要があります。慣れないうちはこれが非常に難しいです。クロッキー等による訓練はもちろん必要になりますが、背景に合わせて人を描く場合、自分の得意とする短縮率の俯瞰絵を描けば良いのではなく、その背景が指定する短縮率で描かなければならないので注意が必要です。

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緑の枠は推定40cm角の立方体です。対角消失点法で正確に描いてあります。この手の立方体はグリッドと呼ばれることもあり、作画の補助として役に立ちます。箱の大きさを見れば、人物の短縮率をどの程度にすれば良いかが直感的に分かります。この絵の場合、頭部は足元に対して約20%大きく描かなければなりません。

20%と聞くと大したことないと思うかもしれませんが、この数字は結構大きいものです。実際、絶妙なバランスで描かれた人体の頭部だけを20%縮小または拡大すれば、とても奇妙な絵になってしまいます。

とはいえ、頭上から真下を見下ろすような俯瞰絵と比べると、縮小率は小さいと言えます。実際、この程度の俯角の絵だと、ぱっと見の印象は2点透視図と大差がありません。しかし、そこに作画上の罠があり、縮小しなければならないと分かっていても、散々鍛えられた2点透視図のバランス感覚が邪魔をして、いざ描いてみると普通の2点透視図にしかならないという事態が発生します。

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左は短縮が効いておらず、完全に2点透視図のバランスです。右は縮小を意識しすぎて小さくなりすぎた例です。

1つの方法として、箱をガイドに身体の要所の断面を描き、それらをつなぐ方法があります。とはいえ、断面の位置や大きさがずれると、出来上がる絵もずれるので、いうほど簡単な方法ではありませんが。

結局、身体のラインは下のものを採用しました。身体のラインさえ取れてしまえば、日常で着るような普通の服であれば、それほど苦労せずに描けると思います。

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2.消失点の位置決め

 透視図法的に大事なことは3つの消失点の位置を決める方法ですが、今回は

  • 視心を画面中央に置く
  • 画面の外接円を60°視円錐とする
  • 水平線およびVP2は元の2点透視図と同じ位置とする

の条件を満たすものとしました。この条件だけで3つの消失点は一意に定まります。手順はスライドで説明しないと厳しいので、後日パースフリークスにアップしたいと思っていますが、概略は次のようになります。

  1. 画面(PP)を描き、中央に視心を置く。
  2. 画面(PP)に外接する60°視円錐を描く。
  3. 視円錐の縁から半画角(60°視円錐の場合は30°)を測り、側面図SPの位置を決定する。
  4. 水平線および側面図SPの位置を頼りに、VP3および平面図SPの位置を決定する。
  5. 平面図SPおよびVP2の位置を頼りにVP1の位置を決定する。

3.影の描写

影についてもコメントしておきます。今回描いた影は理論もなにもなく適当に描いたものですが、厳密にやろうとすれば、透視図法の理論で描くこともできます。ただし、光源の位置を正確に把握している必要があります。

言葉にすれば簡単で、壁に映る人の影を描く場合、光源をSPとする透視投影によって、人物を壁に投影するだけです。つまり、光源がSP、壁がPP、人物が被写体です。太陽光のような平行光源の場合は、SPを無限遠点におけば良いです。つまり平行投影になるということですね。

実際の手順としては、まず光源をSPとした人物を描きます。シルエットを描くだけでいいので、普通に描くよりは簡単ですが、絵の視点とは別の視点から同じポーズの人物を描くことになるので、制約がある分、難しいと言えます。(あくまでも影用なので、それほど精度はいらないと思いますが)

このように説明すると、絵の視点に光源があれば1枚で済むのでは? と思うかもしれませんが、その場合は残念ながら、人物と同じ位置に影ができるので、影は文字通り人物の影になって見えなくなります。

シルエットさえ描ければ、あとはそれを壁面に射影変換するだけです。これはPhotoshopの自由変形ツール等を使えば一発でいけます。(変換先の座標は事前に求めておく必要があります)。アナログでやる場合はグリッドなどを描いて、目で見て転写するしかないです。(パース!マンガでわかる遠近法という本を持っている方はP89をご覧ください。6~7コマ目が射影変換です)

影が床と壁など2つ以上の平面にまたがる場合は、各平面毎にPPを設置して影を描画する必要があります。その意味では、階段などに映る影は非常に手間がかかります。

まあ複雑なものはともかく、ごく普通の平坦な地面に映る影であっても、ビシっと描ければ、映える絵になりそうです。またそのうちサンプルを示せればと。