広角と望遠の違い
人体にかかるパースの続きです。
今日は広角と望遠の違いについて説明します。
望遠(左)と標準(中)と広角(右)
顔の作画が安定しないのは仕様です。三つ子ではないですよ。同じ女の子を視点を変えて描きました。見た目が異なるのは、カメラからの距離が違うためです。被写体とカメラとの距離は、左が10m、中が5m、右が2.5mとなっています。あとで説明しますが、それぞれを望遠、標準、広角と呼ぶことにします。(この距離ならこう呼ぶという決まりがあるわけではありません)
厄介なことに広角と標準と望遠では見た目が異なりますので、違いの分かる絵師を目指すのであれば、これらの描き分けが必要です。そこで作画上の注意をいくつか挙げてみます。
図中の赤い円は体の断面を指しています。望遠になるほど直線状になっていきますので、靴下や服の袖など円形のものを描くときは注意しましょう。
また足の形状にも違いが見受けられます。広角になるほど足が長く見えます。反対に望遠の足はかなり短縮するので、これらを意識して描き分ける必要があります。(顎や胸など出っ張っている部分は、基本的に同じ性質です)
順序が逆になりましたが、改めて広角、標準、望遠とは何かについて図解します。
1.広角
カメラには映し出せる範囲というものがあり、これを画角といいます。図の赤い領域は人物の全身を写すために必要な画角を表しています。この例では、被写体とカメラとの距離が2.5mしかありませんので、図の通り画角が広くなります。これを広角と呼びます。
2.標準
被写体からカメラまでの距離を倍の5mにしました。画角は先ほどより狭くなったことが確認できます。広角ほど広くなく、次に説明する望遠ほど狭くない画角を、標準と呼びます。
3.望遠
被写体-カメラ間の距離をさらに倍にして10mとしました。画角は相当狭くなっています。このように非常に狭い画角を望遠と呼びます。
4.見た目の違い(標準、望遠)
冒頭で説明した通り、カメラからの距離が異なると、被写体の見た目が変化します。今度は背景と合わせて見ていきましょう。
この人物はカメラから5mの距離にいます。つまり標準レンズ的な写り方をしています。ここで注意すべきは、この人物はこの絵の中では、この位置にしか配置できないということです。
ちょっと実験してみましょう。まったく同じ人物をカメラから10mの距離に配置しました。(手前の人物を半分の大きさに縮小コピーしただけです)。一見違和感がないように見えますが、よく見てください。なにかおかしくないですか?
明らかにおかしいのは靴の大きさです。この石畳は靴幅とほぼ同じ大きさですが、後ろの人物は靴の長さが石畳2枚分ほどあります。つまりありえないほど足の長い少女になってしまったということです。
この例で分かる通り、ある前景を背景に合わせる場合、ジャストフィットする箇所はただの1か所しかありません。それ以外のどこに置いても、パース的におかしな絵になります。(厳密さを求めないのであれば、多少の許容範囲はあります)
後ろの人物はカメラから遠い位置にいるわけですから「望遠の絵」でなければなりません。正しい絵は次の通りです。
足の幅が石畳と同じになり、背景と違和感なく馴染みました。
5.見た目の違い(広角)
最後に広角の絵も見てみましょう。
この人物はカメラから2.5mの距離にいますので、この視野では足元が見えません。仮に画面を拡張したとすると、次のようになります。
ここでも足のサイズに注意です。女の子に似つかわしくない巨大な足になってしまいました。しかし石畳と同じ大きさであり、パース的にはこれで正しいです。この大きさが不自然に見えるようなら、画面をここまで拡張してはならないということです。(これでも画角的にはギリギリ60°の視円錐に入っています)
以上、カメラからの距離によって見え方が変わるというお話でした。
本当は背景と人体のパースが合わないと、どのぐらい奇妙な見た目になるかをやりたかったんですけどね。意図的に間違ったものを描くのは意外と難しく……。次回やれたらやります。
広角と望遠の違い (2)に続きます。