メイキング:クリスマス絵(3点透視)
今日は前回アップしたクリスマス絵の(主にパース的な)解説をしたいと思います。
1.パースの解説
図法の分類的には3点透視図になりますが、VP1と視心(VC)は非常に近い位置にあり、ほぼ1点透視図と変わらない構図と言えます。3つの消失点は下図の配置であり、VP1が近いこともあって、VP2とVP3は非常に遠くに発生します。画角は対角で約60°です。
次は各消失点に向かう直線に注目します。青はVP1へ、赤はVP2へ、緑はVP3へそれぞれ向かっています。1点透視に近いだけあって、赤はほぼ水平、緑はほぼ垂直なラインとなっています。とはいえ一目見て傾きが確認できる程度には傾斜しています。
この程度の傾斜なら無視して水平垂直で描いてもいいんじゃないの? と思うかもしれませんが、そんなことはありません。仮に水平と垂直で描いてしまうと、本当に1点透視図になってしまいます。そして視心(VC)はVP1の位置まで移動し、その影響で画角が60°→80°まで広がってしまいます。よって、消失点に向かう直線の傾きは無視できないのです。この僅かな傾きが絵を自然な状態に導いているとも言えます。
次は人物に着目します。人を囲うように箱を描きました。例によって正確な立方体です。1辺は30cmです。(一番手前の人物のみ27cm)。背景に合わせて人を描く場合、箱が大活躍します。なぜなら箱を見るだけで、大よその寸法感や奥行の短縮率を感じ取れるからです。円を描く場合、楕円の偏平率(潰れ方)も分かります。例えば、お皿やコップの円を描く場合、近くにある箱の上面に内接する楕円が大よその偏平率になります。靴下や靴の上部の円を描くときも、便利なガイドとして機能します。
箱はあくまでもガイドなので、ピッタリ収まる人を描かなければならないというものではないです。事実、縁側に座っている子は箱に収まっていませんが、これは意図的にそうしています。身体を少し後ろに反らせたかったので。
手前の人物の身体の向きに注目してください。パースライン(という呼び方は正しいのかな?? 水色の線のことです)を引くと、1か所に収束していないことが分かります。これは作画ミスではなくわざとです。なぜなら、この子は下半身から上半身にかけて身体を捻っていて、徐々に奥を向いているからです。(画力が追い付いてなくて、捻り感が出てませんがTT)
大雑把な寸法設定です。今回は厳格に長さを測らずに描いたので、若干のずれはありますが、それでも押さえるべきところは押さえて描いています。BBQグリルに関しては、寸法を決めてから描いたのではなく、絵を描いてから大きさを作図的に逆算しました。
問題だったのは串の長さです。串を持つ手に着目してください。握りこぶしが約10cmとすると、串の金属部分は30cm強ぐらいと推定されます。食べ物の大きさ(推定3~4cm)からしても、概ねそれで間違ってないと判断できます。
となるとグリルに置かれている串も同じ規格だとして、グリルの奥行も概ね30cm程度でなければおかしいということになります。逆算した結果が26cmだったのでOKとしましたが、大幅におかしければ整合性を取るためにどこかを調整しなければならないです。
人間の勘は結構頼りになったりもするので、まずは勘で描いてみて、あとで寸法を検証するといいかもしれません。今回はそうしました。
2.人物の作画
パースに合わせて人を描く方法はまあいろいろありますが、人そのものは普通に描くだけです。私の場合は、まずラフ(左)を描いてイメージを固めてから、別の紙に本番絵(右)を描いています。
パースに関してはIllustratorで作図した箱(立方体)を眺めながら、目分量でパースを掛けながら作画しています。まず人物の全体像を大まかに描いて、スキャンして合わせこみながら描き進める場合もあります。あるいは箱をプリンタで印刷してトレーシングペーパーやトレース台等で紙に転写する手もありますね。
人物と背景を別々に描くか、一緒に描くかは悩むところかもしれません。こればかりはやり易い方でとしか言えません。ばらすメリットとしては、人の位置を微調整する際に、ずれた分の背景を消したり描きこんだりしなくていいことと、背景を描く際に人をよけて線を引かなくてもいいことが挙げられます。デメリットは人物にパースをかけるのが感覚的にやりづらいという点と、接地面の描写ですかね。ちなみに今回接地面の影(スカートの裾と床の接点に引いてある線)だけはペンタブで描きました。唯一ペンタブを使ったのがそこだけというのがなんとも……。
背景との合わせがあるため、人物単体で描く場合と比べて、考えなければならない点があります。今回の場合は、瓶を持つ少女が何気に難関でした。最初は普通に立って注ぐ絵を描いてたんですが、それだとどうしても、瓶がコップよりかなり高い位置になってしまうんです。理由は縁側の高さです。あまり深く考えず椅子の座面と同じぐらいでいいかと思い、40cm前後の高さに設定して描き進めていました。ところがそこにコップを置いてジュースを注ごうとすると、普通に立ったままでは注げないことが分かりました。無理に描くと、腕が不自然に長くなったりものすごく不自然な姿勢になってしまいます。また瓶を斜めに傾けると、中身が恐ろしい勢いで噴き出すことになり、やはり不自然です。
普段あまり意識しませんが、瓶の傾きって、最初は水平より上向きで注ぎはじめ、中身が半分以下になったぐらいでようやく水平なんですね。この事実も今回絵を描いてみて初めて気が付きました。
このようなケースで間違っても人全体を画面下の方にさげてはいけないです。足が地面に陥没してしまいますので。
結論を言うと、肩を前に出しました。つまり前傾姿勢です。いやまあ、それだけのことなんですが、そういうのって人単体で描いてると遭遇しない問題なんですよ。背景がなければ人物単体の見た目だけが問題となり、空間的な不整合は分かりませんし、漫画であれば手だけアップで描いたり、コマが小さいおかげでごまかせたりで。
このような問題が発生するのは、基本的に背景要素と人物の間に絡みが発生する場合に限ります。要は背景の中に人がいるパターンです。(ゲームの立ち絵など)背景の手前に人をアップで置く場合は、人物と背景を分離して描けますので、この手の問題は発生しないです。もちろん、それはそれで別の難しさがあると思いますが。
3.全体の作業手順
私が取っている工程全体の手順ですが、
- 頭に思い浮かべたイメージを元に、大雑把なラフを描く。
- Illustratorでラフを読み込んで、消失点等を作図する。
- 消失点を元に、ラフの精度を上げる。
- ラフを元に、人物および背景パーツを作画する。
- 各パーツをPhotoshopで合成した上で、Illustratorでパースの確認をする。
- 仕上げ(塗り等)をする。
こんな感じです。デジタルツールの恩恵が非常に大きいですが、それでも絵自体はアナログに拘っていて、できれば塗りもアナログでやりたいと考えています。とりあえずは鉛筆の陰影を極めたいかな。